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宇宙掃除の鍵はヤモリの指:分子間力を利用した新型吸着システム

2017.07.31  | 
WRITER:
水谷圭佑
 

スタンフォード大学のマーク・カトスキー教授の研究室と、NASAのジェット推進研究所(JPL)が、スペースデブリを効率的に回収する新型の吸着システムを開発しました。

このシステムはヤモリが指で壁面に貼りつく仕組みを再現したもので、接着剤などを使わず、あらゆる素材に対して吸着と剥離を自在に行えます。

スペースデブリとは何ぞや?

人類は宇宙に進出するにあたり、ロケットの燃料タンクから壊れた人工衛星に至るまで、様々なゴミを衛星軌道上に残しています。

一度衛星軌道に乗ってしまうと、何らかの理由で軌道を外れない限り、半永久的に漂い続けるゴミ。これが、「スペースデブリ」です。人工衛星のように大きなものから、小さなネジに至るまで、デブリの種類や大きさはさまざまです。

超高速で飛び回るゴミ

衛星軌道上にあるデブリは、高度300~450キロメートルの低軌道なら、毎秒7~8キロメートルもの速度で移動しています。戦車砲弾の初速が秒速2キロメートル強なので、その速さが良く分かるというものです。

ネジ1本でも直撃すれば宇宙飛行士を即死させ、場合によっては宇宙船すら機能停止させることでしょう。
レーダー観測によれば、2017年の時点で大きさ10センチメートル以上のデブリ約2万個以上あることが確認されています。予測では、1ミリメートルまでの物なら、その数は1億5千万個にもなるとのこと。宇宙開発を続ける上で、デブリをいかにして取り除くかは大きな課題なのですね。

制約が多い宇宙でのお掃除

デブリと同じ軌道に乗れば(飛ぶ向きが同じなら)、回収者から見てデブリは停止することになりますが、無重力状態で浮いている物を正確につかみ取るのは困難です。ソーラーパネルの破片やチタン製の部品などは磁石では回収できませんし、真空の宇宙では掃除機は使えません

温度が120度~マイナス150度まで変化する宇宙空間では、接着剤はすぐに変質・劣化して効果を失います。高出力レーザーで蒸発させてしまう大胆な方法も考案されていますが、未だ構想段階です。

あらゆる条件下で物をくっつけるには?

いかなる環境でも物質でも安定して吸着するシステムを開発するため、スタンフォード大学とJPLはヤモリに注目しました。実はヤモリはカエルと違って吸盤は持っておらず、代わりに指の表面に密生した剛毛によって物に貼りついています。
この毛は1平方センチメートル当たり10~100万本の密度で生えており、それぞれの先端は100~1000本の毛に分岐しています。先端部の毛の太さは200マイクロメートルほどで、電子顕微鏡でないと観察できないほどのサイズです。

分子の間に働く力「ファンデルワールス力」

これらの毛が物に押し付けられると、ファンデルワールス力によって毛と吸着面の分子同士が引き合います。

ファンデルワールス力とは無極性分子の間に働く力で、簡単にいえば分子同士が引っ張り合う力の一種です。ドライアイスは、このファンデルワールス力によって固まっている結晶の代表例といえます。
ファンデルワールス力の強さは、分子同士の距離の6乗に反比例します。つまり、物同士が分子レベルで密着しているときにのみ発揮される吸着力ということです。

ヤモリの吸着力は130キログラム

ヤモリの指を壁に押し付けると、無数の微細な毛が、接着面の表面にあるわずかなくぼみやでっぱりに至るまで、余すところなくフィットします。なるべく多くの面積をナノサイズの距離で密着させることで、ファンデルワールス力を最大限まで引き出すというわけです。
計算上、1匹のトッケイヤモリ(東南~南アジア原産のヤモリ。体長25~35センチメートル)の指に生えている毛(約6500万本)を全て使えば、130キログラムの物をぶら下げることが可能です。

強力な吸着力ですが、毛の角度を変えてやるだけで簡単にはがすことができます。
分子同士の間に働く力を利用しているため、どのような素材や形でも、重力が無くても大気が無くても、軽く触れるだけでひっつけることができる、まさに万能吸着システムです。

ヤモリを模倣したデブリ回収システム

今回開発されたシステムは、四角いブロック状の装置に、二つのグリップを取りつけた構造をしています。この装置の表面にはヤモリの指の構造を再現した四角形のパッドがいくつも配置されおり、装置内部の操作回路に接続されています。

使用するときは、グリップを持ってパッドをデブリに押し付けるだけ。するとファンデルワールス力によって、デブリがパッドに吸着されます。

鍵は毛が生えたパッド

パッドの表面にある毛の太さは40マイクロメートルと、ヤモリの体毛の2000倍もあるため、ヤモリほど強力な吸着力を発揮できるわけではありません。ただ、パッドはいくつも配置されている上、無重力下での使用を想定しているため、デブリを回収するには充分なようです。

スイッチを操作して毛の角度を変えれば、吸着したデブリを簡単に放せます。

今後は宇宙で実験予定

このシステムは地上における微~無重力実験において優秀な結果を残しており、今後はISS(国際宇宙ステーション)での試験が予定されているそうです。
カトスキー教授によると、このシステムは垂直の壁を登るための装置や、宇宙船の表面を移動する修理用ロボットにも応用できるとのこと。同じ原理を使った手術用テープの使用例もあり、今後はさらに広い分野での応用が期待できそうです。

 

ソース・画像:SIA MagazineScience AlertScience DailyThe Royal Society Publishing

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