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偏差値57.8の東ロボくん、弱点は「常識がわからない」

2016.07.08  | 
WRITER:
石井妙子
 

東大を目指すAIの弱点が明らかに

2021年度の東大合格を目指す人工知能(AI)の「東ロボくん」が今年度、偏差値57.8を叩き出した。人間の受験生の平均を超えたというわけだ。東ロボくんが初めてセンター試験模試を受けた13年当時は偏差値45。成績は順調に伸びてきているのだが、ここへ来て意外な弱点が明らかになった。

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東ロボくんは物理が苦手!

機械の脳は、人間がこれまでの経験を通じて得た膨大な「常識」を持たない。これが問題文の意図や状況の把握など、人間なら難なくできることを阻んでいるというのだ。

「当たり前」がわからない!

例えば物理。最大の弱点は、問題文を理解できないことだ。同じ理系科目でも数式や定型の表現が多く、設問の意味が一つに定まる数学の問題文とは異なり、物理では文章で説明された状況を把握する必要がある。

「時速40kmで走る自動車から後方に投げたボールの運動」という問題があるとする。人間なら誰でも、道を走る自動車の窓から外に向かってボールを投げる光景を思い描くだろう。それは、これまでの経験で養ってきた膨大な知識の蓄積があるから。「自動車とは人が乗って動くもの」「ボールは外に向かって投げた」「自動車には重力が働いている」等々、どれも問題文には書いていないけれども「当たり前」として認識される当然の前提だ。

しかし東ロボくんは、もっと言えばコンピューターは、日常生活の経験がないために、そうした「常識」を持たない。そのため、問題文の説明から状況を把握するという第一段階でつまずいてしまうのだ。

今後の人工知能の活用のテーマにも

「東ロボくん」は、国立情報学研究所(NII)が中心になって2011年にスタートしたAI開発プロジェクトだ。さまざまな企業や大学の研究者らが科目ごとチームを組み、東京大学の入試問題を解くソフトウエアを開発する。

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大学入試はAIが対応しやすい課題と見られていたが・・・

プロジェクトを率いるNIIの新井紀子教授は、物理の問題で直面した問題を「ロボティクスの今後を占ううえで重要な取り組み」と話す。それは、将来的に家庭や街中で働くロボットが、身の回りの出来事をどこまで把握できるのかの目安となるのだ。

人間の「常識」を、辞書のようにロボットに与えることは「現実世界と言葉は一対一で対応していないため、難しい」(NIIの稲邑哲也准教授)。例えば「カバンを持つ」と「カバンをぶら下げる」はほぼ同じ動作を表しているが、「カバンを持つ」と「鉄棒を持つ」の持つは、まったく違う。このように、人間が当たり前のように状況把握に使っているさまざまな「常識」をロボットに教えるのは、不可能に近い。

さらに経験から得る「常識」ばかりでなく、たとえば「空腹になったら食べなくてはいけない」「動いているモノに注目する」などは、人間なら生まれたばかりの赤ん坊でも知っている。生物進化の長い歴史の中で人間が得た「常識」だが、ロボットには分からないことだ。

人間が現実世界で何気なしに選んでいる選択や行動の多くは、こうした「常識」に基づいている。でもコンピュータやロボットは、「常識」を持たない。どれだけAIが進化しても、コンピュータが人間と同じようにこの世界を認識するようにはならないのではないだろうか。

ロボットにしかできないこと、新しい知能を

新井教授は「物理の試験結果は、自動運転(の開発)に重い課題を残したと思う」と話す。たとえば運転中に何かが飛び出してきて、進めばぶつかるが、避ければガードレールに衝突するような場合。人間ならば状況を瞬時に把握し、自己防衛を最優先しつつ、できれば他者も守ろうとして、一瞬で判断を下すだろう。でも、ロボットにその判断は難しい。

アメリカのSF作家、アイザック・アシモフは、ロボットが守るべき3つの原則「人を傷つけない」「自分を守る」「人間の命令に従う」を提唱した。しかしこの原則を守るためには、目的のためにどのような行動をとるべきかを判断する必要がある。それには何よりも「常識」が必要とされるのだ。

ロボットは、「人間の優秀なコピー」となる必要はないだろう。ロボットの特徴を生かし、人間にはできない、ロボットにしかできない役割を担ってほしいと願う。

 

ソース・画像:日本経済新聞

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