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テクノロジーと人間が合体する未来へ 「ロボットができること」イベントレポート・後編

2016.11.02  | 
WRITER:
あずさゆみ
 
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日本一大きな文化祭「マジカル福島2016」のプレイベントとして、10月30日(日)に開催されたシンポジウム「ロボットができること ~今とこれから~」のレポートを、2回にわたってお届けします。後編のテーマは、「ロボットの広がり、未来について」についてです。

驚きのテクノロジーが次々と登場!

パート2の登壇者は、次の方々です。

・稲見昌彦氏:東京大学先端科学技術研究センター教授、超人スポーツ協会共同代表

・吉崎航氏:アスラテック株式会社チーフロボットクリエイター

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左から順に、吉崎さんと稲見先生

 

・杉本真樹氏:医師、医学博士、株式会社Mediaccel代表取締役、国際福祉大学大学院医療福祉学研究科准教授

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杉本先生
パート1同様、最初にお三方がそれぞれの研究を紹介してくださいました。そのボリュームのすごさ、内容の濃さといったら! 消化しきれないほど多くのことを学べました。
それでは、瞬きを忘れるような、そして時に抱腹絶倒の(!)プレゼンテーションをご紹介します。

人機一体を実現するための自在化技術

まずは東大の稲見先生から。先生がおこなっている「身体情報学分野」の研究というのは、「人間の身体を情報システムとしてどう理解し、支援するか」ということだそう。

なんだか難しそう? 大丈夫です。もうしばらくお付き合いください。

人機一体

簡単にいうと、「先端技術×身体=スーパーヒューマン」を実現する研究でしょうか。先端技術というのは、VR(バーチャルリアリティ)、AR(拡張現実感)、多感覚インターフェース、ウェアラブル技術、ロボット技術、テレイグジスタンスなど。そこに情報システムとしての身体を組みこむことによって、人体の限界を超えようというわけ。

ウェアラブル技術で身体能力を大幅に拡張したり、テレイグジスタンスで距離を超えたり、ということですね。

 

たとえば、光学迷彩。これ、『攻殻機動隊』の熱光学迷彩にインスパイアされて作ったそうです!

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これを発展させ、内装材に再帰性反射材を用いることで、外が透けて見えるようにした車がこちら。
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左折時の巻き込み防止に、そして駐車時にも威力を発揮しそうですね。

自在化技術

自動車を例に取りましょう。自動運転技術はめざましい進歩を見せていますが、自動車は単なる移動手段ではない場合もありますよね? オートバイや自転車なら、なおさら「運転する楽しみ」を求める人も多いことでしょう。

 

AIが人と遜色ない能力を得たとして、自分の代わりに旅行に行ったり、おいしいものを食べたりしてほしいですか? やっぱり自分自身が体験したいですよね? 面倒なことはまかせてやりたいことは自在におこなうためにAIを使いこなす、それが自在化技術です。
自在化技術とは、いかに人間の能力を拡張するか、いかに人間のやりたくないことを肩代わりし、弱点を補うか、ということ。そこで、人馬一体ならぬ「人機一体」というコンセプトが出てくるんですね。

たとえばウェアラブルを用いて能力を拡張する「超身体」、VRやテレイグジスタンスを用いて肉体を脱ぎ捨てる「脱身体変身」。さらに、「分身」や「合体」を実現する研究もはじまっているそうです。

 

人間の能力を拡張する技術の研究は、世界各地で行われています。たとえばアリゾナ州立大学がおこなっているのは、これ。

背中にジェットエンジンをつけて速く走る研究!! たしかに速く走れますが、止まるのが難しいそうです。脚にかかる負荷も大きそうですね。

超人スポーツ

さて、自在化技術を使って新たなスポーツを……と設立されたのが、「超人スポーツ協会」です。

超人スポーツとは、技術とともに進化しつづけるスポーツであり、年齢や障がいの有無にかかわらず誰もが競技者として、そして観客として楽しめるスポーツのこと。

 

たとえば、手綱で操作するキャリオット。

年齢を問わず楽しめます。

 

ARで技を発動させて戦うHADO。

まさに、身体能力を拡張した戦いですね。

 

番外編として、会場を大いに沸かせたのが、超人スポーツ協会とコベルコ建機株式会社のコラボで実現したこちら。
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大きくテイクバックしたアームを、思いっきりブンッ!
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ボンッ!!
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飛んだ~!!!

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ドリブルもできちゃいます。

 

 

この研究の目指すところは「役に立たない(ように見える)ことを通し、新たな価値を想像する」こと。超人スポーツ研究で培われた自在化技術が実装されることももちろんですが、これからどんなバリアフリー・スポーツが生まれてくるのか、楽しみです。

 

社会のわき役になれるロボット

つづいて、アスラテック吉崎さんのプレゼンテーションです。

アスラテックの信条は、ロボットのハードウェアを敢えて作らず、さまざまなプロジェクトにソフトウェア面で関わること。「ロボットを作らないロボット屋」だそうです。

 

たとえば介護ロボットの場合、一からロボットを開発するのではなく介護機器のメーカーに発案してもらい、「それならば、御社の車椅子に腕をつけることで対応できますよ」といった提案をおこなえる体制づくりをしているそうです。その方が開発費用を抑えられ、既存の規格に適合した商品が生まれやすいんですね。さすがは「大体なんでも動かす」会社、どんなものであっても柔軟に対応してくれそうです。

 

この日のプレゼンのテーマは「社会のわき役になれるロボット」でした。F1カーのように華があるけど手のかかる主役級ロボットではなく、「主役よりわがままをいわない」、「必要な量をそろえられる」、そして「飽きられても役に立つ」ロボットを、とのこと。そこにいるのが当たり前のように人に寄りそうロボット、ということでしょうか。

 

そんなアスラテックが扱うのは、やはり人型ロボットがメイン。アスラテックの制御ソフトウェア「V-Sido(ブシドー)」を採用したロボットは、リアルに歩くもの、クラウドと連携するもの、ゲーム用ジョイスティックやスマートフォンと連携するもの、揺らされてもボールをぶつけられてもなかなか転ばないものなど、多岐にわたっています。

こちらは受け付けなどで活躍するActroid。
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自動化技術と遠隔操縦をシームレスにつなげることによって、ただの自動化よりインテリジェントな対応が可能なのだとか。

そして注目は、重機を操縦するDOKA ROBOです。
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稲見先生のお話にもあったのですが、カメラを取りつけたラジコン建機の遠隔操作はとても難しいそうです。ところが、ロボットをコックピットに載せてVRで操作する方式にすれば、建機を操縦できる人なら誰でも動かせるようになるのだとか。

崩落の危険がある、また線量が高い現場で、どこからでも調達可能な普通の建機に人型ロボットを搭乗させて使えるのはありがたいですし、動かせる人が多いことも強みですね。

 

プレゼンテーションを聞いて、わたしたちが求めているのはまさに「わき役」として人に寄りそい、社会を支えてくれるロボットだと感じました。

 

医療と健康と生活のこれから

最後は杉本先生のプレゼンテーションです。

本シンポジウムのテーマ「ロボットにできること」に関連して、まずは手術支援ロボットの紹介から。
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da Vinci Xi サージカルシステム

手術支援ロボットが自律的に動くことは、現時点ではありません。マスタースレーブ方式で外科医の動きに合わせてアームを動かしたり、震え(手ぶれ)を止めたり。動きを拡大したり、逆に非常に細かい作業では動きを縮小して伝えたりもしますが、元になっているのはすべて執刀医の動きです。

この手術支援ロボットの最初のコンセプトは、戦地で傷ついた兵士を米国本土の医師が手術する、遠隔手術ロボットでした。遅延の問題などがあって実際に使われたことはありませんが、こういったコンセプトは、先のおふたりの研究ともリンクしていますね。

 

手術支援ロボットのダヴィンチは、3本のアームと1本のカメラを体内に入れて手術をおこないます。ふたつのカメラを使って体内を立体的に見られる3Dモニターは、臓器の奥行きやアームの動きが把握しやすいばかりか、触覚を再現する効果もあるそうです。

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硬さや手触りの多くは視覚情報を元に判断できるので、鮮明に見えれば臓器の硬さが判断できるし、糸の引っぱり具合もわかるのだとか。

最近は8Kカメラを使う試みもなされていて、解像度が高くなると、立体視以上に触感がわかるとのこと。また、どんなに拡大してもくっきりとピントが合い、0.01ミリの微細な毛細血管まで見えて「出血を未然に防げる」というからすごいですね。

 

開腹手術に比べて患者の負担が小さく、術者の疲労・ストレスも軽減するダヴィンチ、日本にはおよそ200台が導入されているのですが、これは世界第2位の普及率だそうです。

 

ダヴィンチの利点はもうひとつ。手術をおこなっているかたわらで、トレーニングができるんです。
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進行中のオペをデータ化してすぐ傍で体験し、シャドー・トレーニングができる。もちろんデータが残るので、後の検証にも使えますね。

 

いいことづくめのダヴィンチですが、開腹手術ができないドクターが増えていくという問題もあるようです。

VRの活用、そして可触化へ

VR技術によって、患者の体内に入りこんで観察することもできるそうです。
画像はオペ前シミュレーションの様子。VRで体内を観察し、オペの手順を確認していきます。
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シミュレーションはオペ室で、実際のオペと同じように手術着でおこないます(オンサイト・シミュレーション)。本番と同じ環境でおこなうことで、しっかり体に刻みこまれるそう。画像は、手術1時間前のシミュレーションの様子です。患者の体内を中から観察し、1時間後におこなう手術をあらかじめ体験できるわけですね。

 

さて、VRでどんなにデータを見ても、それは情報に過ぎません。実際に経験しないと、学習したことにはならない。そこで、情報を元に3Dプリンタで臓器の模型を作る「可触化」の試みも始まっています。

切れば出血し、止血の練習もできるシミュレータ。これはもうロボットと呼べるでしょう。
失敗して危機感を持つ人は、成長が期待できるそう。患者さんで失敗するわけにはいきませんから、このシミュレータでビシバシ鍛えてもらいましょう。

 

 

最近では、膨大な医学論文のなかから該当する症例を見つけだし、患者の命を救ったAIもニュースになりました。
人間の能力を拡張し、人を進化させる。手術の精度や安全性を飛躍的に高め、医学の進歩、技術向上に貢献するロボットの存在。もっと多くの人に知ってもらいたいです。

 

ようやく鼎談スタート

プレゼンテーションがあまりにも濃いうえにボリュームたっぷりで、ほとんどタイムアップ……というところで鼎談スタートです。

 

このテクノロジーは使える、まだ使えないという判断基準は? (稲見先生)

 

出口(課題)ありき、で考えていますね。課題を解決するだけでなく、「なにが魅力的か」というゴールを設定してから、それを実現するテクノロジーはなにかを考えます。(杉本先生)

 

テクノロジーを選ぶ際には、安全性や長く使えることを考慮するとのこと。そこは吉崎さんの考え方とも一致しています。

 

3Dプリンタはすっかり下火になりましたが、VRは来年どうなっていると思います?(杉本先生)

 

今ほど口の端にかかることはなくなっているでしょうね。しかしVRという言葉が消えたとき、ロボットが消えたときに、本当に広まっている状態になっていると思います。(稲見先生)

 

「ロボット」という言葉からイメージされるものも、変わっていくだろうという話も出ました。

 

今のロボットはアームやタイヤなどが必要ですが、ものがなくても、たとえば電波で代用できる部分があるんじゃないでしょうか。(杉本先生)

 

研究コンセプトの依り代として、今さかんに開発されている人型ロボットはあるんじゃないかと。最終的にヒューマノイドが広がるかどうかは実はわからないけれど、そこで培われてきたテクノロジーがいろんなところに浸透するというのが、あり得る未来だと思います。(稲見先生)

 

わき役になれるロボットが、社会を支える未来ですね。

 

吉崎さんのV-Sido OSのすばらしいところは、人と機械の関係が常にシステムに入っているところ。ハードウェア実装が人型であろうが建機型、車型であろうが押さえられることを目指しているところ。複数の身体をつなげるためのテクノロジーを目指しているのだと、わたしは見ています。(稲見先生)

 

身体がないと本質的に物事を理解できず、学習もできない。しかし「身体」はかくあるべき、というものはないそうです。そこで、

 

常に自分の体がどういう状態なのかを見ながら自然に動かせるシステムを先に作ったら、あとから誰かがハードウェアを作って、それに合わせたAIを作ってくれる。仲介部分の共通項はここだ、という部分を用意することで、色々な身体それぞれの学習はできると考えています。(吉崎さん)

 

身体は別にVR空間にあってもいいんですよね? CGか3Dプリンタか実際の身体かは、本質的には区別がつかないというところまで来ているんじゃないでしょうか。(稲見先生)

 

ところで、超人の「超」ってなにを超えるのかというと……。

 

今の人、じゃないでしょうか。今の人より優れた能力を獲得し、それによって本人が成長するというところもあってもいいかもしれません。テクノロジーをたくさん使いすぎると、外したときにダメな人以下になってしまうのではないか、という話もあります。ダヴィンチを使うことによってより器用に手術できるようになるが、ダヴィンチがないとダメとか。でもそれは、ダメになるというより「適応」ですよね?(稲見先生)

 

今の若いドクターは最初に内視鏡、ロボット手術を学ぶので、大出血したときに開腹して止めることができない。テクノロジーが進みすぎて、開腹の経験がなくなりつつあるんです。開腹しないと対応できないケースは数パーセントあるので、「超人」もいいけど「常人」もできないといけないんですよね。(杉本先生)

 

「超人スポーツ」だけはなく、「常人スポーツ」も大切なんですね。

 

普通の手術が上手なドクターは、ロボット手術も上手です。超人スポーツも、元々スポーツをしている人がおこなうとより強化されるでしょうし、それによって普通のスポーツも盛りあがっていくのがいいんじゃないでしょうか。(杉本先生)

 

まだまだお話を聞いていたかったのですが、ここであえなく時間切れ。遍在するロボットが人の能力を拡張して進化させる社会、人とロボットが共存する社会。そんな未来に期待がふくらんだ1日でした。

 

 

なお、このシンポジウムの様子はニコニコ動画でタイムシフト視聴が可能です。プレミアム会員の方はぜひチェックしてくださいね。
《画像ソース》
東京大学先端技術研究センター 稲見・檜山研究室

Asratec

日本ロボット外科学会

ニコニコ動画

 

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