テクノロジーが叶える「地震予測」 あなたのスマホが地震計に?!
2020.08.17 |- WRITER:
- haruka
地震は地下の岩盤の境目がずれることで起こります。日本は太平洋プレート・北米プレート・フィリピン海プレート・ユーラシアプレートの4つの影響を受けるため、世界的に地震の多い国です。
日本には地震を早期に感知し情報を発信する『緊急地震速報』がありますね。これは震源の近くにある地震計が揺れを検知して配信するという仕組みです。
一方、先日Googleが発表したシステムは、個人が持つスマホそのものが地震計になるというのです!
″世界最大の地震検知ネットワーク″
Googleは2020年8月11日、同社のAndroidスマートフォン向けに地震検知システム『Android Earthquake Alerts System』を発表しました。Googleはこのシステムで世界最大の地震検知ネットワークを構築するとしています。
地震による揺れ=地震波は、最初に観測される小さな揺れのP波(Primary wave)と、次に観測される大きな揺れのS波(Secondary wave)があります。
Googleが発表したシステムは、Androidスマートフォンに搭載されている加速度計を利用しP波を感知するという仕組みです。Androidスマートフォンが地震の揺れを検出すると、その場所とデータをサーバーへ集め解析し地震が起きたかを判断します。
現時点では、Google検索で「地震」など関連するキーワードを検索すると地震情報が表示されるという形です。いずれは、揺れを体感する前に避難など身を守る行動を呼びかけられるよう、Androidスマートフォンに通知したい考えです。
このシステムは既にカリフォルニア州で提供を開始し、同州の地震速報システム『ShakeAlert』に反映して各端末へ情報を配信しています。Googleは今後1年で提供する州や国を拡大していくといいます。
(出典:Earthquake detection and early alerts, now on your Android phone、グーグル、Androidスマホで緊急地震速報システム構築へ–加速度センサーを地震計に)
日本の『緊急地震速報』も、揺れが伝わるのが速いP波を検知し各端末に配信しています。仕組みは似ていても″自分のスマホが地震計になる″というのは面白いですよね。地震計を整備するよりもコストや時間がかからないというメリットもあります。
また日本では先月、機械学習を用いてより高度に地震を予測するシステムが発表されました。
物理モデル×機械学習で地震を予測
防災科学技術研究所(防災科研)は2020年7月27日、「地震による揺れの予測(地震動予測)の高度化に向け、人工知能と物理モデルを組み合わせたハイブリッド予測手法を新たに開発」したと発表しました。
本研究の成果を基に更なる研究を進めていくことで、将来の地震災害に備えるための地震ハザード評価や地震発生直後の緊急地震速報の精度向上につながることが期待されます。
防災科研は、プロジェクト研究『地震・津波予測技術の戦略的高度化』を進め、その一環で機械学習を用いた地震動予測の高度化に取り組んでいるそうです。今回発表されたハイブリッド予測手法は、従来の予測手法である地震動予測式と機械学習を組み合わせ、それぞれの長所を生かして地震動予測をします。
防災科研によると地震動は、
・震源での断層破壊の効果
・震源(断層)と観測点(予測地点)の間の地下構造が伝播する地震波に与える効果
・観測点(予測地点)直下の地盤構造による揺れの増幅効果
これらそれぞれが影響するそうです。
従来の地震動予測式は地震動の強さの指標や規模、震源と予測地点間の距離などから計算し予測していました。これは「これまでの学術的知見に基づく物理モデルを方程式で表現しているため、発生頻度が少ない事象を予測する場合でも、ある程度の予測性能を発揮する」といい、安定性のある手法です。
その反面、「方程式の関数形をあらかじめ仮定するため、例えデータが仮定した関数形とは異なる傾向を持っていたとしても、それを表現できないという性質」があり、柔軟性が無いそうです。
また機械学習はデータに基づく予測を精度良く行え、「地震動予測への適用の場合、従来手法ではあらかじめ仮定していた方程式の関数形を、データに基づいて導き出すことができる点が特に大きな利点」だとしています。
しかし、「まれな事象を予測することを機械学習は苦手としているため、データ中に大きな偏りを持つ不均衡データを学習した場合、機械学習による予測に偏りが生じる可能性」が指摘されています。
実際に機械学習を使ってみると「強い揺れを過小に評価する偏向が生じる」ということがあったそうで、もしこれが現実に起きてしまうと防災に悪影響を及ぼしてしまいます。
こうした点から、地震動予測式と機械学習の良いところを組み合わせ、高精度な予測を行うハイブリッド予測手法を開発しました!
具体的には既存の地震動予測式によって第一段階の予測を行った上で、それだけでは足りない部分を補う形で機械学習による第二段階の予測を行い、それらを組み合わせたものを最終的な予測として出力します。
ハイブリッド予測手法をテストしたところ、地震予測式や機械学習による単一の予測に比べて性能が良いそうで、「特に強い揺れの過小評価が改善されている」と述べています。
強い揺れは甚大な被害につながるため、これを高精度に予測できるのはとても重要なことです。これからの地震予測に役立つ手法となりそうですね。
(出典:地震の揺れを予測する新たな手法を開発~人工知能と物理モデルのハイブリッドで更なる精度向上へ~)
スパコン『富岳』で地震予測
日本のスーパーコンピュータ『富岳』を地震予測へ活用するプロジェクトがあります。2021~2022年の運用開始を目指して開発が進んでいる『富岳』は先日、新型コロナウイルス感染症の研究に活用されていることで話題になりましたね。
文部科学省が設置した『スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム』には4つの領域があり、そのひとつである「領域② 国民の生命・財産を守る取組の強化」の取り組みとして「大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装」があります。
これはJAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)の海域地震火山部門・地震津波予測研究開発センターを中心としたプロジェクトで、東京大学地震研究所などと協力・連携して進めており、次の課題に取り組んでいます。
国の被害想定のための地震・津波災害予測におけるアプリケーション活用
・重点課題から開発してきた大規模有限要素を用いた計算コードが、国の被害想定のもとになる長周期地震動計算や津波初期水位計算で用いられるようアプリケーションの改良を国と連携して実施する。
・建築・土木系企業等が、国の想定と同等の計算ができる仕組みを構築する。
地震に関する災害被害予測のための大規模アプリケーションの開発
・「富岳」の性能を引き出すように、計算科学・計算機科学の最先端技術を駆使して、地震に関する災害被害予測のための大規模アプリケーションを改良する。
(出典:「富岳」成果創出加速プログラム:「大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装」)
近年注目が集まる首都直下型地震はマグニチュード7クラス、南海トラフ地震は9クラスと予想されており、甚大な被害が出るおそれがあります。地震津波予測研究開発センター センター長・堀 高峰氏は、『富岳』を活用した地震予測について次のように述べています。
国難とされる首都直下地震や南海トラフ地震への事前の備えを適切に進めるためには、地震発生から地震動・地盤増幅に至る地震災害の定量的評価が不可欠です。本プロジェクトでは、富岳での超大規模計算で定量的な評価を実施するための統合的予測システムを構築して、国の行う地震動・地盤増幅評価に実装します。さらに、地震発生やその準備過程の現状把握と予測の解析に取り入れる地下の3次元不均質構造モデルの基盤を整備します。
『富岳』は2020年6月、大規模グラフ解析に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキング「Graph500」で世界第1位を獲得しました。さらに世界のスーパーコンピュータの性能ランキング「TOP500リスト」、産業利用などでよく用いられる共役勾配法の処理速度の国際的なランキング「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、人工知能の深層学習で主に用いられる単精度や半精度演算処理に関する性能ベンチマーク「HPL-AI」でも第1位に輝いています。
高性能な『富岳』の地震予測が、地震大国・日本の防災力を高めてくれると期待しています!
(出典:「富岳」成果創出加速プログラム:「大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装」、スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラムについて、スーパーコンピュータ「富岳」がGraph500において世界第1位を獲得、スーパーコンピュータ「富岳」TOP500、HPCG、HPL-AIにおいて世界第1位を獲得)
幅広い分野でその能力を発揮する人工知能、高度な計算能力をもつスーパーコンピューター、さらに誰もが手にするスマートフォンで地震に備えることが可能になってきています。備蓄したり避難経路を確認するなど普段から災害意識を高めつつ、テクノロジーの力も借りていざというときに備えたいですね。